のぶもん台湾さんぽ

台湾のあちこちに出かけたときの旅日記をつらつらと書いています。マイナーな街の紹介が結構多いです。

台湾で台湾の映画を見る〜親愛的房客

こんにちは、のぶもんです。

 

最近すっかり映画好きの習性を取り戻し、映画館に足繁く通うようになりました。

 

今回の作品は莫子儀主演の「親愛的房客」です。それでは、感想に行きたいと思います。

 


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「あらすじ」


基隆市内の古いアパートに住む林健一(リン・ジェンイー)は、房東(大家)のお婆さんと9際になる孫の悠宇(ヨウユー)の面倒を見ている。悠宇は実の息子ではなく、亡くなった恋人・王立維(ワン・リーウェイ)の息子なのだ。

 

お婆さんは糖尿病と足の病気を併発しており、いつも痛みに苦しんでいる。

 

ある日、お婆さんが亡くなった。ところが死因に不審な点があり、健一にお婆さんを殺害した疑いがかけられる。いったい、この3人の間に何があったのか?


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 (基隆駅前の風景。映画の中でもこのような曇り空が多い)

 

「同性愛映画であり同性愛映画でない」

 

健一と立維はゲイカップル。立維が離婚してから健一が階上の空き部屋に引っ越してきて、半ば同居生活が始まった。このことは、映画でも始めから明確に示されており、男性どうしのラブシーンやゲイが現状において抱えざるを得ない葛藤もいくつも描写されている。

 

それでは、「刻在」のような「同性愛」をメインテーマに据えた映画化というと、必ずしもそうではない。どちらかというと、「血のつながりがない人間どうしが、いかにして家族のように深い絆を紡いでいったのか」を描いた、映画史においては形を変えて繰り返し問われてきたテーマを扱った映画なのではないかと思う。

 


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(基隆駅前の細長い商店街ビル)

 

 

「金馬奨助演女優賞を獲ったお婆さん(陳淑芳)の凄み」

 

さて、大家のお婆さんは、映画の前半で早々と亡くなってしまい、その時点ではそれほど強い印象は残していない。(ベテラン大女優が、普通にうまく演技している、という程度だ)

ところが、お婆さんの死の真相が明らかになる後半戦になると、陳小姐の鬼気迫る演技に圧倒されまくってしまうのだ。

陳淑芳は、「孤味」で金馬奨主演女優賞も受賞している。ある程度は、長年台湾の映画界に貢献してきた彼女に対するレスペクトが混じっていると思うが、それを差し引いても納得の受賞だった。

どちらも長く生きてきた者の苦しみ、愛憎、喜びなどをうまく演じているのだが、「孤味」では妻として、母として台南の町で必死に生き抜いてきた女性の、どちらかと言えば(映画の世界では)正統派の演技が存分に披露されるのに対して、「親愛的房客」では、ばらばらになってしまった家族と自分の病の苦しみ、そして闖入者ともいうべき息子の彼氏に対する複雑な気持ちといかにして向き合っていったかが静かに徐々に描かれ、しっかりと主役を支えている。



「基隆の街が持つ独特の雰囲気」

舞台となる基隆は、日本統治時代に急速に発展を遂げた港町。今ではやや時代に取り残された雰囲気が町中に漂い、日本でいえば昭和の香りが漂う。そんな街のもつ暗さや湿り気が映画の空気を多分に支配している気がする。実際に基隆という町は、雨が非常に多い街で、僕自身も基隆を訪れて晴れていた経験はほとんどない。

下の写真は、基隆駅近くの古くて長いビル商店街の中にある、ロケ地のカフェ(というか喫茶店)。このような裏通り感が強い場所にふさわしいシーンで登場するのだが、どんな場面なのかは、実際に映画を見て確かめてほしい。

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(初見咖啡にて)

 

 

お店の壁には映画のポスターがしっかりと貼られていた。台湾でもロケ地巡りが好きな人は少なくないので、映画の余韻に浸ろうと思って訪れた台湾人もいるに違いない。


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ストーリー展開はどちらかと言えば重く苦しい感じで、決して気楽に見られる映画ではない。けれども、見て損はない映画だと思う。

 

「家族とは何なのか」「血がつながっていなければ共に暮らす人にはなれないのか」という、普遍的なテーマと台湾そして基隆という町が持つ独特の空気がうまく融合した見ごたえのある作品だ。何とか日本公開にたどり着いてほしい映画である。