のぶもん台湾さんぽ

台湾のあちこちに出かけたときの旅日記をつらつらと書いています。マイナーな街の紹介が結構多いです。

台湾で台湾の映画を見る〜孤味(台南を舞台にした女たちの深い深い愛憎そしてエビ巻き)

こんにちは、のぶもんです。

 

先週の土曜日、台湾で今一番話題の映画「孤味」を見てきました。金馬獎主演女優賞を受賞して、なんとあの蔡英文総統も映画館で鑑賞したという(さすがに警備の都合上、貸し切りだったそうですが)、評価の高い作品です。

 

それでは、レビューをどうぞ。


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(写真は、台南の國華街の風景)

 

「あらすじ」

70歳になるおばあさん、林秀英。台南でエビ巻き屋を営みながら、これまで女手一つで3人の娘を育ててきた。今日は秀英の誕生日食事会の日。そこに、愛人とともに蒸発した夫の訃報が届く。

 

娘たちは母を愛してはいるものの、それぞれ生き様が異なり、抱える悩みも様々。夫(父)の葬儀まで4人が一緒にいる時間が多い中、時にはぶつかり合いも生じてしまう。

 

そんな中、台北にいる夫の愛人が台南の廟に現れ、秀英と鉢合わせになる・・・。

 

「母と娘たちの愛憎」

 

母は、3人の娘の幸せをいつも心から願っている。が、それ故にともすると自分の価値観の中での幸せに娘たちをはめ込んでしまおうとする(これは、台湾ドラマでママがしばしばやらかすことだ)。

 

長女はおそらくそのレールに反発して芸術の道へ、次女は母の願い通り医者になったが、それは次女が心から望んだ道ではなかった。三女は母の店を継ぐらしいのだが、実は父の愛人と連絡を取り合っており、父の最期を看取っている。

 

「刻在」の二人の高校生の愛情は、ただ純粋に「好きで好きでたまらない」というだけのものだが(これはこれで青春時代の特権なので、どちらが価値が高いという話ではない)、この母娘たちの感情はそれよりも遥かに複雑。お互い愛するがゆえに、レールを敷き、反発し、従い、もっとわかって欲しいとボヤいてしまう。

 

「どうしようもない夫だけれども・・・」

 

秀英の夫に対する(そして夫の秀英に対する)愛情そして憎しみもまた一筋縄で葉行かないもののように感じる。

 

初めは、甲斐性がなくだらしない夫をただ憎んでいるだけかと思ったら、実はもっと深い愛情も同時に持っていたんだということが徐々に分かってくる。これをモノローグですべて語ると興ざめなのだが、セリフと動作と情景描写から少しずつ感じ取れるようになっているので、見ていてすんなり入れる。

 

愛人が登場する場面などから少しずつ分かってくる夫の姿。そこでは、なぜ秀英そして愛人が、こんな男に惹かれたのかもなんとなくわかる仕掛けだ。

 

実は映画の出だしはちょっと退屈したのだが、気づいたら彼女たち・彼らの魅力に引き込まれている自分に気づいたのである。

 

「小道具としての台南」

 

台南は、台湾の中でも特にドラマ性を感じやすい町だと思う。台湾語(ホーロー語)が街で普通に飛び交い、どことなく台北に対する強い対抗意識も感じられる街。

 

そんな街で、台南名物の「蝦捲(えび巻き)」の屋台から這い上がっていった母、という設定だけで、都会的で洒落た台北とは一線を画すイメージが容易につく。(ちなみに、エビ巻きを母が揚げるシーンが1回だけあるが、これがまたたまらなく魅力的なのだ!)


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それに対して、父を象徴する小道具が、台北の老舗菓子店「明星咖啡館」の俄羅斯軟糖(マシュマロ)という西洋菓子というのが、父を一言で象徴していて面白い。今度、台北駅界隈に行くときは、このマシュマロを買ってみよう。

 

「女の園のものがたり」

 

非常に優れた作品だと思うし、エンディングは、「刻在」とはまったく違う種類の、滋味あふれる涙が流れてきた。が、僕は映画を見ていてずっと、ガラスの向こうの話をじっと指をくわえてみているような気持ちだった。

 

そう、女どうしの感情のもつれ合い、ぶつかり合い、共感、そういったものが、頭では理解できても、本能的にはすぐには感じ取れない(半歩遅れてやっとわかる感じ)。

 

この辺りは、完全に主観的感想なので、いろんな方(特に男性)に感想を伺ってみたい。

 

いずれにしても、日本公開に持ち込みやすい作品だと思うので、みなさん公開を楽しみにしていてほしい。


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